瑞浪市化石博物館
研究報告

瑞浪市化石博物館研究報告第4

奥丹後半島中新統からのアジ科魚類化石

大江文雄・古橋喜博

出版年月日: 1977/12/25   ページ数: 7395, pls. 2122

奥丹後半島の北東部,京都府与謝郡伊根町足谷地区の小谷に露出する豊岡累層福之内層灰岩・砂岩・泥岩層から産出したアジ科魚類化石の種属について検討した結果,アジ科イケガツオ属(Chorinemus)の新種であることが判明し,イネイケガツオ(Chorinemus inensis Ohe and Furuhashi)と命名した.

現生イケガツオ属は暖海性中層遊泳型の魚類でアジ科魚類の中では祖先的な形質を多くもち,サバ科とも比較され,その進化系統樹中では基部に位置ずけられる.

本報告では主として新種の形態的記載をおこなった.外形的,骨格的特徴は次のように概括される.

1 総体長81 mmの紡錘型小魚で頭部が総体長に比べ異常に大きい.総体長は頭長の3.8倍である.(2)主上顎骨は眼の中心下まで達する.(3)下顎骨は細長く直線的でアジ科魚類一般にみられる歯骨と関節骨の接続によって形成される間隙(Interosseous space)はない.4)体表保存の鱗は細長

く矢先形.この鱗形はイケガツオ亜科の特徴である. 5)尻鰭を支えている第一中間血間棘は太く,その基部は血管棘に融合する.また,その末端部には強大な2つの尻鰭棘が附着する. 6)第二背鰭,尻鰭は軟条.両鰭の後部はサバ科等にみる遊離鰭(fin-let)に変化する. 7 眼下骨SO1SO2の間に三角形状の眼下骨床(第2図)が存在する.(8 尾椎骨数は16,腹椎骨は一部不完全であるがその数は10である.(9)尾骨(第3図)の下尾軸骨HY14は融合して三角扇状に発達する.

このような特徴を備える種属はChorinemus属以外にOligoplites属がある.両者は外形的には区別がつかず,Chorinemus属(7種)は太平洋に,Oligoplites属(4種)は大西洋に生息する.しかし,頭蓋骨の形状の相違,尾椎骨数15,眼下骨床の欠除などの点で区別される.

現生種との比較では頭長の総休長に対する比の値が現生種のものに比較して小さいことや第二背鰭始部が尻鰭始部よりやや前方にあって異なる.しかし,基本的には日本近海に生息するChorinemus orientalis Tem. et Sch. に似る.